第12回 世界の歴史
『青木の世界史B講義の実況中継 1〜4、文化史』
青木裕司 著 語学春秋社
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物語が繰りひろげられている時代や、知っていて当然のことのように扱われている歴史的事件に関する知識がないときに、自分を上手にいいくるめて適当に流し読みをするというのもたしかに手ではあるけれど、言うまでもなくそんな読みかたでは内容をきっちり理解することは出来ないだろう。フィクション・ノンフィクションに関係なく、どうらや読書を楽しむうえで歴史の知識というものは、どうしても最低限は知っておかなければならないもののようである。
たとえば、ヴィクトル・ユゴーの大作『レ・ミゼラブル』は物語全体に革命の雰囲気が妖しく漂っているけれど、場所がフランスだからといって、すぐにこれを1789年の「フランス革命」だと早合点してはいけない。この物語の舞台は19世紀初頭であり、時代区分としてはナポレオンが失脚しルイ王朝が復活した「王政復古」と呼ばれる時期である。だからこの長い物語においてうずまいている革命への激しい思いはこの復活したルイ王朝を倒そうというものであり、その思いはのちの1830年に「七月革命」という名前で呼ばれ結実するものであって、もしこれをフランス革命へといたるそれだと勝手に決めつけてしまったら、その瞬間から誤読が始まることになる。歴史の知識の有無というのは、読書をするうえで本当におおきな問題なのだ。
でも、「フランス革命」程度のならともかく、「王政復古」だの「七月革命」だのといわれても、歴史に興味があって特に意識してその種の本を読んででもいないかぎり、普通の生活を送っている方にはぴんとこなくて当然だろう。そんな方におすすめしたいのが、この『青木の世界史B講義の実況中継』シリーズ・全5巻である。
大学受験の参考書である本書は、実況中継というタイトルどおり、著者である河合塾講師・青木裕司の講義をそのままぎゅっとつめこんだかたちになっている。オリエントにおける文明発祥から米ソの冷戦終結までの世界の歴史を地域ごとにたどりながら、青木はそれぞれの出来事の意義や用語を解説し、講義は時に脱線を含みながらで進んでいく。講義自体のわかりやすさはもちろんだけど、本書のさらなる特徴は折々におさめられている彼の手による歴史上の人物の似顔絵であるだろう。手書きによる一口メモがくわえられたそれらの絵はどれもなかなか手馴れたもので、抽象的になりがちな歴史の学習において記憶をしていくうえのイメージの喚起の手助けをしてくれる。
受験参考書である本書の本来の姿にたちかえって考えると、付属のチェックプリントを解きまくって記憶の定着を図るというのがこの本の正しい使いかたではあるだろうけど、受験生ではないみなさんはそこまでする余裕はないだろう。それでもこの本に書かれている内容をしっかりと自分のものとするためには、繰り返し読んでいくという地味な作業が肝要である。骨が折れることとは思うけど、最低3回ほど通読すれば、歴史のだいたいの流れがつかめてくるはずだ。
全5冊もあるというと、どうせなら山川出版社をはじめする教科書を1冊手に取ったほうが手軽じゃないかと思うかもしれないけれど、わたしは教科書は独学には不向きであるような気がしてならない。教科書とは、あくまでそこに書かれていることの知識をもった教師によってその内容が噛み砕かれてはじめて、そのちからを発揮するものではないだろうか。本書が全5巻という相当なボリュームなのは、ひとつひとつの出来事についての細かい解説までをも含んでいるからこその分量なのである。 |
(2006.5.31掲載) |
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